去る11月29日土曜日、神戸大学医学部におきまして、大学生を対象に日本プライマリ・ケア連合学会 80大学行脚プロジェクトの一環として、医療面接と家庭医のキャリアについてのワークショップが開催されました。そこに講師としおよびいただいたので、キャリアの一部を担当させていただきました。
今回のワークショップ講師陣は私のほか
音羽病院/大津ファミリークリニック 来住先生
麻生飯塚病院/頴田病院 松島先生
西淀病院/大正民主診療所 鈴木先生
亀田総合病院/亀田ファミリークリニック館山 菅長先生
といったメンバーで行いました。内容は、
始めは菅長先生による「診断に迫るための医療面接」
続いて鈴木先生による「行動をかえるための医療面接」
次に私が「診療所ではたらくことについて」(というかむしろ離島医療について話した)
松島先生が「病院総合医についてと家庭医療総論」
最後に来住先生による「今日のまとめ」
でした。若くてやる気にあふれる学生さんたちと交流できて実に楽しい1日でした。これを機にたくさんの学生さんや研修医の方がうちの診療所に遊びに、ではなく、学びに来てもらえるとうれしい限りです。
今回は家族志向のケアについて書こうと思います。
まずは症例(フィクションです)から。
喘息(ぜんそく)で通院している6歳の男の子、A君がいました。彼はしばしば小~中程度の喘息発作を繰り返し、入退院をしていました。発作予防の吸入薬も最大限使用しています。主治医はこの先、どうしたよいものかと考え、この子の家族について聴いてみることしました。
いつもは母親とともに来院しているので、母親に聞いてみるとこんなことがわかりました。
両親と9歳の兄と父方祖父母との二世帯住宅に住んでいます。父、祖父ともに喫煙をしています。父は小児喘息だったそうです。父も祖父も気遣ってタバコを家の外で吸っています。ペットはいません。共働きで日中は祖父母が子供たちの面倒を見ています。
発作と家族内の出来事と何か関連していることはないかとたずねると、こんな答えが返ってきました。
「夫との仲があまり良くなくなったときに発作が起きることが多い気がする。やっぱりストレスも原因になりますか?」
以上のことを聴けたので、主治医はご家族みなさんと集まって、話し合う機会が欲しいと、その母親に申し入れ、後日、家族カンファレンスを行うことになりました。
家族カンファレンスには同居のご家族すべてが参加してもらえました。そして主治医はカンファレンスの司会兼書記となります。
主治医は謝辞を述べたのち、A君の喘息の治療について話しておきたいことと、皆の思いを聴かせてほしいことを述べ、カンファレンスを始めました。カンファレンスにより、皆、A君の喘息が良くなってほしいという思いがわかりました。また、祖父母や母は父にタバコをやめてほしいこと、祖父は禁煙をする気がないこと、父は禁煙したいがなかなかできないこと、家族仲が悪化すると特にA君の状態が悪くなりやすいことに気づいていることがわかりました。
そして、医師は一般的な家族の喫煙による喘息への影響と禁煙外来について説明し、また、子供は家族の仲をとりもつために、病気が生じることがあることを説明しました。
この後もそれぞれ各自の思いを話し、まずは父、祖父ともに禁煙をもっと積極的に考えてみるという結果になりました。夫婦間のときどき起きる問題については今回は保留となりました。
このようにして、3か月後、A君の父と祖父は禁煙外来で禁煙成功し、喘息の治療段階も一段階さがりました。夫婦仲についても特に目立った喧嘩などはしなくなったということでした。
以上、うまくできすぎた話ですが、例をあげるとこういったことです。
家族志向とは医者が①家族という背景をもった患者であること②患者と家族と医療者は互いにヘルスケアのパートナーであること③医療者は治療システムの一部として機能していることの3つを前提にして、ケアを行うことです。プロの医療職の方や詳しい方法を知りたい方は”家族志向のプライマリケア”(訳:松下明)をご覧いただきたい。
これもまた家庭医療の基本的知識・技術なのです。