乳腺炎について、肉を食べるなとか食べろとか、あれやこれやを食べたらだめなどとを言われることがあります。しかし、果たして統計学的に結果がでているのでしょうか?少し調べてみました。
PubMedという文献検索システムを利用して乳腺炎、食事、危険因子で検索したところ、乳牛に関するものが多かったのですが、1件のみ人に関する探していた研究結果が出てきました。
それは1990年の研究で、産後の乳腺炎を経験した母親を対象に調査してものでした。要約しか読めないのですが、そこには産後最初の3ヵ月に最も乳腺炎になりやすく、3分の1は6か月後に生じました。4分の1は産後1年後に生じたとのことでした。母親たちに疲労、ストレス、授乳回数の変化、乳腺のつまり、うっ滞、家族の感染、乳房の外傷、乏しい食事といった項目を重要度順で報告してもらいました。この研究結果が示したのは乳腺炎を予防するにはストレスと疲労をコントロールすることであるとのことでした。
食事内容については差がなかったのでしょうね。
まことしやかに世の中に広まっている、食事内容が乳腺炎と関連しているかどうかはもっと研究が必要なのでしょう。今のところ、医療者として何を食べたらなりやすいとは言える状況ではありませんね。母親にとって、ストレスと疲労は少ないにこしたことはないですし、乳腺炎という、さらなるストレスを是非とも予防したいものです。そのためにも家族の協力は不可欠ですね。
文献:Riordan JM, Nichols FH. A descriptive study of lactation mastitis in long-term breast feeding women. J Hum Lact. 1990 Jun;6(2):53-8.
私事ながら3月に子どもが産まれました。5年間できず、不妊外来に通い、やっとできた待望の一人目で、産まれたときは涙がでそうなくらいうれしかったです。
しかし、産まれてからというもの、妻が乳首が痛い、母乳を飲みたがらない、まったく寝てくれないなど、よくある悩みが噴出しました。母乳に関しては私もあらかじめ勉強してはいたのですが、何せ、誰にも教えることがない期間が長すぎたせいか、忘れてしまっていました。お母さんがハッピーにならないと子どもはハッピーにならないの信念のもと、昔、母乳育児に詳しい助産師さんにおすすめしてもらった1冊と、この1冊を購入後にたまたまAmazonのおすすめ書籍で現れた1冊がとても助けになったので紹介したいと思います。
一つ目は「ドクターKIRIKOのおっぱい育て-母乳で育てたいお母さんのために」です。
著者は産婦人科医で国際ラクテーションコンサルタントです。
内容は非常にかんたんでよみやすく、わかりやすく、実用的です。乳首に血豆ができて悩んでいた妻にこれに書かれていたことを教えてあげると、授乳のときに痛みはなくなり、血豆もなくなりました。教えたポイントは、
①赤ちゃんを正面から見たとき、背骨のラインをまっすぐに抱くこと
②赤ちゃんの体をお母さんの体に密着させること
③赤ちゃんの鼻先や上唇にちょんちょんと乳首の先をあてて、大きな口をあけたところで、しっかり、くわえさせること。このとき、下あごまで乳輪にひっつき、唇が外側にめくれあがっているようなら上手にできている。ちゅぱちゅぱ音がするようなら浅吸いなので、小指を口の角からいれて口を離させ、くわえなおすこと
です。
その他にも完全母乳育児をめざすお母さんには役立つことがたくさん書かれています。
二つめは「カリスマ助産師トコちゃん先生の赤ちゃんがすぐに泣き止み、グッスリ寝てくれる本」です。
こちらは腰痛で悩む妊婦さんに人気のトコちゃんベルトの開発者、渡部信子さんがご自身のサロンでも実践している赤ちゃんをすぐに泣き止ませて、グッスリねてもらうための技術を書いてあります。
赤ちゃんをおなかの中にいたときのようにまんまるくすると、赤ちゃんは落ち着いてよく寝るということなのです。
我が子が家に来てから1か月間、なかなか寝付かなかったり、夜中に起きて1時間くらいぐずったり、昼間も寝ないので1時間おきに授乳して、妻も参りかけていました。そこで、この本に書かれていた方法を試してみました。まんまる抱き、首枕におひなまき、まんまるベッドです。まんまる抱きは抱っこの仕方なので道具はいりません。首枕は100円均一ショップで買えるもので作れます。まんまるベッドは授乳クッションとタオルを使用して作りました。
そして、これを試してみたらどうでしょう。。。
なんと!すぐに泣き止んで、こちらから起こさない限り、なかなか起きないではないですか!!
これはかなり衝撃でした。今までの1カ月は何だったんだと、もっと早く知っていればこんなに悩むことはなかったのに!!と叫びたくなりました。
本書によると、赤ちゃんにとって、背骨を丸めた姿勢が一番、赤ちゃんにとって楽なのだとか。実際によく眠るようになりましたし(放っておくと6時間は寝ました)効果はあると思います。
かなりおすすめの1冊です。
まったく季節とは関係ありませんが、今回はお母さん、お母さんにこれからなる人が知っておくべき(意外な?)8つの知識をまとめてみます。
①妊娠前から葉酸をとりましょう
葉酸を妊娠前からサプリメントとしてとっておくことで、赤ちゃんの神経管閉鎖障害による二分脊椎や無脳症、脳瘤などの先天的な異常の発生を75%減少できます(参考文献:Farahi N, Zolotor A : Recommendation for preconception counseling and care. Am Fam Physician, 88(8): 499-506, 2013. )。妊娠してから赤ちゃんの脳や脊髄になる神経管という器官が閉鎖するのは妊娠6~7週で、それまでに補充しておく必要があり、推奨される摂取期間と用量は妊娠1カ月前から妊娠6~12週まで、1日400μgの葉酸摂取を勧められています。
なぜサプリメントかというと、日常の食生活では日本人の平均的な葉酸摂取量は1日200~250㎍(厚生労働省:平成24年国民健康・栄養調査報告, 2014.)であり、通常400㎍の葉酸摂取はむずかしいので、市販のサプリメントでよいので補充が必要となります。葉酸は摂取しすぎても、余計な分は尿とともに出ていきます。極端な話をするといつ妊娠をしてもいいように、初めて生理が来た時から葉酸のサプリメントをとることは勧められるということです。
②妊娠前に風疹の予防接種を受けましょう
妊娠3カ月までに風疹にかかると赤ちゃんが先天性風疹症候群という先天的な異常を起こす危険性が高まります。この病気は生まれつきの心臓病、難聴、白内障が代表的な症状で治療法はなく、生涯この病気と付き合わねばなりません。このため予防がもっとも重要になります。そのためにはお母さんになる人とその周りの人の予防接種が最も有効です。現在は子供のうちに風疹ワクチンは2回接種が定期接種となっていますが、まだ接種していない大人は大勢おられます。風疹ワクチンを2回接種した記録がなければ、抗体検査をまたずに2回接種しておくことをお勧めします。たとえ、過去に2回接種していたことがあとになってわかっても、特別な害はおきません。また、妊婦健診で風疹抗体を測定されますが、抗体が16倍以下とわかった場合は出産後、退院時に風疹ワクチンを接種してもらいましょう。
③妊娠経過に問題なければ運動はした方がいい
早産の経験やそのほか基礎疾患(心臓病など)や妊娠経過に異常などがなければ、たいていの運動は可能です。むしろ、体重管理や妊娠中の諸症状の改善のためにも適度な運動はおすすめです。多くのプールで妊婦は遊泳禁止のこともありますが、水泳も可能です。ただし、飛び込みは避けたほうがよいでしょう。避けるべき運動は格闘技やラグビーなどのコンタクトスポーツやロッククライミングなど生命に危険が及ぶ可能性の高いスポーツはやめておきましょう。
④こどもの健康状態は見た目が重要
お子さまの健康状態を常に把握する責任を負っているお母さん、お父さんにとって、お子さまの状態の変化はとても心配になります。そこで、お子さまの状態の変化でとても大切なことは、見た目が元気かどうかです。たとえ、熱が39度くらいあっても見た目が元気ならまず安心していいでしょう。
また、母乳育児をされているお母さんにとってよくある悩みが母乳が足りていないのではないかという悩みはよく聞きます。これも赤ちゃんの見た目が大切で、赤ちゃんが機嫌よくすごしており、健診ごとの体重測定で少なくとも体重が1日12g~15g以上増えていれば何も問題ありません。また、母乳はミルクに比べて、すぐに胃を通過していくのでおなかがすきやすく、ミルクよりも頻回におっぱいをほしがります。頻回に母乳をしっかりあたえることで母乳分泌を長く保つことができ、乳腺炎の予防にもなります。
⑤中耳炎も副鼻腔炎も”かぜ”の仲間
かぜ、急性中耳炎、急性副鼻腔炎のほとんどはウィルス感染が原因です。ほとんどの場合はかぜと同じで治療しなくても自然に治ります。また、ウィルスには抗生物質は効きません。鼻水止めを飲んでいても急性中耳炎や急性副鼻腔炎は防げません。ただし、中耳炎や副鼻腔炎で39度以上熱がある場合や痛みがひどいなどの重症の場合や、ある一定の期間(中耳炎なら生後6か月以上で2日間、副鼻腔炎なら10日間)様子を見てもよくならない場合は抗生物質が効く細菌感染によるものと考えられますので、小児科か耳鼻科を受診するようにしましょう。(参考文献:サンフォード感染症治療ガイド2015 )
⑥こどものかぜ症状に効果がある薬は、解熱剤とハチミツ程度しかない
こどもの発熱や痛みに対してはアセトアミノフェン(商品名:カロナールなど)やイブプロフェン(商品名:ブルフェンなど)は症状を緩和することが研究でしめされています。しかし、咳や鼻水、鼻づまり、痰に対するお薬で効果があると考えられる研究結果があるものはほとんどありません。
ただし、ハチミツは咳症状に対し有効かもしれません。ハチミツを寝る前にティースプーン(2~5歳でティースプーン1杯、6~11歳でティースプーン2杯、12~18歳でティースプーン4杯程度)を水とともに飲ませると咳症状が改善し、お母さんもよく眠れたという研究結果があります。私の知っているのはソバのハチミツですが、他の花からとれたハチミツでも有効かもしれません。実は大人である妻も咳症状のあるときにためしたのですが、安物のハチミツはまずいだけで効果はありませんでしたが、少し高価なレンゲやアカシアなど花の名前が書かれている、純粋はちみつだと症状が良くなった経験があります。ただし、1歳未満のお子さんにハチミツは与えないようにしましょう。
(参考文献:Julia Fashuner, et al : Treatment of Common Cold in Children and Adults. Am Fam Physician, 86: 153-159, 2012.)
⑦こどものお肌の手入れはぬるま湯で
こどものお肌はとてもデリケートです。子どもはしばしば湿疹やかぶれを起こします。多くの場合は適切なスキンケアで予防できます。スキンケアで最も大切なことは保湿です。必要以上に皮脂を落としてしまわないことが保湿で重要なことです。皮脂を必要以上に落としてしまうよくある原因が熱いお湯です。大人は40度以上のお湯につかるのは気持ちよくて、なんの問題もないことが多いですが、お子さんのお肌のためには少しぬるめ39度以下で体を洗うのが良いでしょう。水仕事をされる方は実感されていると思いますが、素手で熱いお湯で洗い物をするときと、ぬるま湯または水で洗いものをするときどちらのほうが手があれるでしょうか?熱いお湯ですよね。
こどものお肌をお手入れするときはぬるめのお湯で流し、泡立てた石鹸を乗せる程度にして、しっかり洗い流し、やわらかいタオルで優しく押し当てるように水分をとってあげましょう。
⑧夫婦喧嘩でも、こどものPTSDにつながる
心的外傷後ストレス障害(PTSD)は強い心的ストレスを受けた時に、後々になっても、その場面が時々、鮮明に思い出され、日常生活が困難になる病気です。夫婦喧嘩の目撃はこどもにとって強い心的ストレスとなります。
夫婦関係が良好なことはこどもにとってストレスは少ないです。逆に夫婦関係が悪かったりすると、子供には大変なストレスで、病気しやすくなったりします。あるいは夫婦の仲をとりもとうとして、本人は言葉でうまく伝えられないかわりに具合が悪くなることで訴えることもあります。
また、これをお読みのお母さんが暴力(身体的、性的、精神的、経済的)を受けている場合はまず自分とお子様の安全を確保してください。以下のような相談窓口がありますのでご相談ください。
内閣府男女共同参画局:配偶者からの暴力被害者支援情報
・DV相談ナビ(全国統一ダイヤル):0570-0-55210
・配偶者暴力相談支援センター(携帯電話用サイト)
法務省:女性の人権ホットライン:0570-070-810
警察庁:性犯罪被害相談電話設置一覧表
※このほかにも、各都道府県で相談窓口を設置しているので、各ホームページなどをご覧ください。
あるいは育児への不安、子供につらくあたってしまう、あるいは虐待(暴力、暴言、性的、ネグレクト)を目撃した場合は
児童相談所全国共通ダイヤル#189
へご相談ください。
夫婦は仲良く助け合っていくことが健やかなお子様の成長につながりますので、普段からお互いに感謝を伝えて、支えあっていきましょう。
そして、最後にネット上に書いてあることは本当のこともあれば単なる迷信やウソも多くあります。見極めは難しいですが、あれもダメ、これもダメと書いてあるようなものは科学的根拠に欠けていることが多いので疑ったほうがよいでしょう。また、たとえ素人にはわからない内容でも参考文献をいっしょに掲載してあるものはそうでないものよりも信じられる内容である確率は高いでしょう。むしろ、あなたをただただ不安にさせるようなものに信じる価値はありません。世の中知らなくていいことがたくさんあります。こんなことを書いてしまっては今まで書いてきたことはなんだったのかと思われるかもしれませんが、最高の智慧は「知らないということ」です。慈愛の心で接すればおのずと答えは見つかります。もっと自信をもっていいのです。