これからのシーズン、活発になってくるマラソンやトライアスロンをはじめとする持久性スポーツ大会の医学的な管理と準備について、uptodateというオンライン教科書をもとに勉強してみましたので、まとめを書いておきます。
○持久性スポーツ大会は参加者数や障害のリスクによって、多くの傷病者が発生する可能性があるものとして考えます。
○医療を要することになる要因には、
・イベントタイプ(より強度の高いレースはよりトラブルが多い)
・気候(異常な高温や湿度あるいは低温)
・レースの距離
・参加者の健康度合いと普段からの運動度合
・参加者の慣れ具合(気温、湿度、海抜など)
・安全に対する準備(給水方法や医学的トリアージ、コース設定など)
○イベントに関連した死亡は比較的まれだが、心臓突然死、熱中症、運動誘発性の低ナトリウム血症によって生じうる。また、トライアスロンやオープンウォータースイムでの溺水も、まれだが生じうる。心臓突然死はあらゆるタイプのレースや距離でも生じるので緊急対応手段を準備しておく必要がある。運動関連失神はしばしば生じるが、一般に良性で自然に良くなる。
○持久性スポーツの大会は「計画された災害」として医学的にアプローチすることができる。医学的準備のキーコンセプトと核となるタスクは以下を含んでいる。
・心臓突然死、熱中症、運動誘発性の低ナトリウム血症を含む致死的な危険に気づき、対応を計画する
・エイドステーションで一般的な医学的問題に対して認識し、計画する。これらの状態に対応できる人員と資源を確保する。
・地域の救急医療のリーダーや組織と調整する。
・一般的で重要な病状に対し標準的治療管理プロトコルを開発または適応させる。これらのプロトコルに対し、スタッフを育成する。
○必要な医療機器と消耗品はイベントの種類や発生しやすい病状に基づいて決定する。
○レース当日はコース全体を網羅する効果的なコミュニケーションシステムが必要です。バックアップもメインシステムが故障したときに重要です。携帯電話、携帯ラジオ、アマチュア無線の組み合わせで機密の通信が可能です。無線通信は機密が保たれない可能性があります。
○特に暑さとより長いレースでは脱水をさけるために、適切な水分の提供が重要です。最も遅いランナーの場合、10㎞マラソンでは3分の1の地点と3分の2の地点で給水するのが適切です。ほとんどのレースでは3km~5㎞ごとに給水所が設けられます。特に長距離レースではランナーに過剰な水分補給をさけるよう教育することも重要です。
○参加者の年齢や場所、イベントの性質によって、レースをキャンセルする必要がある条件が発生することもあります。極端な気温や周辺の雷、強風、空気の質の悪さはイベントを中止する理由になります。イベントのスタッフやボランティアの安全も考慮する必要があります。
寒くなりましたね。体調はいかがですか?
冬になると流行する病気を今回はご紹介したいと思います。
冬に流行する病気といえばインフルエンザ、胃腸炎です。以前にも書いたかもしれませんが、今回はインフルエンザの話をします。
インフルエンザは感染後、1日~数日の症状のでない潜伏期間ののち、急な発熱、関節痛が特徴です。咳や鼻水、のどの痛み、下痢などをともなうこともあります。だいたい5日~7日くらいで熱は自然に下がります。
学校保健法では発熱後5病日(12月10日に発熱したら11日~15日まで)経過し、さらに熱が下がってから2日以上経過して登校可能となります。法的には登校(登園)許可証は必要ありませんが、学校によっては求められることはあります。
インフルエンザの検査は必ずしも診断には必要ありません。インフルエンザのその場で判定できる検査は熱がでてから最低でも12時間たっていないと、正しい結果がでない可能性が高いです。
治療は原則的にはつらい症状をやわらげる対症療法で自然治癒を待つことです。重症になる危険性の高い人にはタミフルなどの抗ウィルス薬の使用を勧めます。重症になる危険性の高い人は以下のような方です。
・喘息をお持ちの方
・免疫抑制剤を使用中あるいは免疫不全と診断された方
・19歳以下でアスピリンを長期服用されている方
・高度の肥満(BMI>40)の方
・慢性の内分泌代謝疾患、呼吸器、心臓、腎臓、肝臓のお病気をお持ちの方
・5歳以下、特に2歳以下のお子さん、65歳以上の方
・妊婦および産後2週以内の方
では、予防はどうすればよいのでしょうか?
①予防接種をうける
②手洗いをしっかりする
③適度な運動と休養、栄養をとること
④人込みをさける
⑤適度な空気の湿度を保つ(50%くらいが良い)
です。感染していない人がマスクをすることに予防効果はあまりないですが、インフルエンザにかかっている人がマスクをすることで、咳やくしゃみをしてつばが飛び散るのを防ぐことができ、感染拡大を防ぐ効果はあります。
平成28年12月8日現在、もうすでにインフルエンザが流行に入ったといわれています。
まだ、予防接種を受けていない方は予防接種をうけるようにしましょう。予防接種は多くの方が接種するほど、その効果は高まります。
それでは、皆様がこの冬も健康に過ごせるよう、お体を大切にしてください。
乳腺炎について、肉を食べるなとか食べろとか、あれやこれやを食べたらだめなどとを言われることがあります。しかし、果たして統計学的に結果がでているのでしょうか?少し調べてみました。
PubMedという文献検索システムを利用して乳腺炎、食事、危険因子で検索したところ、乳牛に関するものが多かったのですが、1件のみ人に関する探していた研究結果が出てきました。
それは1990年の研究で、産後の乳腺炎を経験した母親を対象に調査してものでした。要約しか読めないのですが、そこには産後最初の3ヵ月に最も乳腺炎になりやすく、3分の1は6か月後に生じました。4分の1は産後1年後に生じたとのことでした。母親たちに疲労、ストレス、授乳回数の変化、乳腺のつまり、うっ滞、家族の感染、乳房の外傷、乏しい食事といった項目を重要度順で報告してもらいました。この研究結果が示したのは乳腺炎を予防するにはストレスと疲労をコントロールすることであるとのことでした。
食事内容については差がなかったのでしょうね。
まことしやかに世の中に広まっている、食事内容が乳腺炎と関連しているかどうかはもっと研究が必要なのでしょう。今のところ、医療者として何を食べたらなりやすいとは言える状況ではありませんね。母親にとって、ストレスと疲労は少ないにこしたことはないですし、乳腺炎という、さらなるストレスを是非とも予防したいものです。そのためにも家族の協力は不可欠ですね。
文献:Riordan JM, Nichols FH. A descriptive study of lactation mastitis in long-term breast feeding women. J Hum Lact. 1990 Jun;6(2):53-8.