ある患者さんにお借りした本を読みました。どういった意図でこの患者さんは私にお貸しくださったのか想像しながら読みました。
題名は『笑いと治癒力』ですが、著者が本当に伝えたいことは3点あると読み取りました。それは、
1.患者自身が治療に積極的に参加することで治癒力が高まると考えている。
2.良好な医師―患者関係が治療に良い影響を与える。
3.医師は患者の自然治癒力を信じ、それを妨げないようにすべきである。
の3点です。「患者中心の医療」、「生物心理社会モデル」を別の言葉、別の経験から表現しているようにも見えます。家庭医の我々からするととても共感できる内容でしたし、著者はジャーナリストながら、「ニューイングランドジャーナル」や「ランセット」といった医学雑誌を読み、深い造諮があり、当時のそこいら辺の医者よりも最新の知識をもっていたのではないかとうかがわれます。
著者は薬には当然副作用があり、治療するはずの薬が体に悪影響を及ぼしている可能性もあると書いています。確かに同感で、現在でも特にお年寄りの多剤内服が問題になっていたり、風邪に対して、いまだに抗菌薬を処方しないように改めて強調されたりしています。
私はしばしば患者さんにたくさんすぎるお薬は体への危険性が高まるから薬を減らしましょうと話すことがあります。そうしたことから、この本を貸してくださった患者さんは私と同じことを話しているので、私に貸してくださったのかと考えました。または、もっと上記3点をしっかりやってほしいというメッセージなのかもしれません。
最近、忘れかけていたように思うので、はっとしました。また思い出して、良い診療ができるよう努力していきます。
3月15日、大阪府枚方市淀川河川敷でランニングイベント”大阪run run run”が開催され、イベントドクターとして参加してきました。イベント詳細は下記。
http://osakarunrunrun.com/
大した事故もなく、無事終了することができました。
河川敷は寒かったです。。。
今回は上記についてです。
家庭医の特徴として近接性、包括性、継続性、協調性、説明責任といわれていたりします。簡単に説明しますと、
・近接性・・・医療にアクセスしやすいこと。受診しやすさのこと。
・包括性・・・あらゆる疾患に対応、複数の健康問題にも対応、個人の性格・歴史や家族背景、社会背景も尊重すること
・継続性・・・継続的に診察することでより、個人に特化した医療を行える
・協調性・・・患者、患者家族、そのほかの専門医、専門職と協働して診療を行う
・説明責任・・・状態、治療方針などを説明し、理解を得て、患者とともに意思決定を行うこと
といったところです。間違っていたらごめんなさい。
で、今回はこの包括的、継続的かつ効率的な医療の提供ということですが、上記のように記載すると「患者中心の医療」の要点とも重なるところがあります。では早速、事例をあげてみます。(フィクションです)
患者さんは91歳の女性で60代の娘夫婦と暮らしています。高血圧と老年性認知症、骨粗しょう症、関節リウマチの治療中です。日常生活はほぼ一人でこなすことができました。これらの問題を一人の家庭医がみていました。今回、肺炎が生じたため、入院したところ、認知症が悪化し、さらに寝たきりとなって退院してきました。
医学的には寝たきりになってしまったのでは、骨粗しょう症の薬を飲んでおく必要性に乏しいため、中止しました。そして、今度は床づれという問題が生じてきました。床づれ予防のためにエアマットを導入したり、すでにできてしまったところにはワセリンラップ処置を指示したり、頻繁に退位変換しましょうと指示しました。また、介護負担が急激に増加するため、ヘルパーにたくさん来てもらったり、デイ・サービスやショートステイを利用したほうが良いと考えられるので、早急にケアマネージャーにケアプランを新たに作成するようお願いしたりました。
その後もこの方は肺炎など繰り返しましたが、数年後に老衰のためにご自宅で看取ること(本人の希望だった)ができ、ご家族も納得されたようでした。
このようにこの事例は複数の健康問題をかかりつけの家庭医が淡々と対処していった例ですが、淡々と対処できることに家庭医の特性があるともいえます。また、ずっと継続してみてきたからこそ、家族やケアマネジャーとの連携をスムーズに行えたし、穏やかな最後をよく見知った医師とともに迎えることができたと考えらます。
以上、包括性と継続性についてなんとなくご理解いただけたでしょうか。