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家族志向のケア

2014/12/04

今回は家族志向のケアについて書こうと思います。
まずは症例(フィクションです)から。

喘息(ぜんそく)で通院している6歳の男の子、A君がいました。彼はしばしば小~中程度の喘息発作を繰り返し、入退院をしていました。発作予防の吸入薬も最大限使用しています。主治医はこの先、どうしたよいものかと考え、この子の家族について聴いてみることしました。
いつもは母親とともに来院しているので、母親に聞いてみるとこんなことがわかりました。
両親と9歳の兄と父方祖父母との二世帯住宅に住んでいます。父、祖父ともに喫煙をしています。父は小児喘息だったそうです。父も祖父も気遣ってタバコを家の外で吸っています。ペットはいません。共働きで日中は祖父母が子供たちの面倒を見ています。
発作と家族内の出来事と何か関連していることはないかとたずねると、こんな答えが返ってきました。
「夫との仲があまり良くなくなったときに発作が起きることが多い気がする。やっぱりストレスも原因になりますか?」

以上のことを聴けたので、主治医はご家族みなさんと集まって、話し合う機会が欲しいと、その母親に申し入れ、後日、家族カンファレンスを行うことになりました。

家族カンファレンスには同居のご家族すべてが参加してもらえました。そして主治医はカンファレンスの司会兼書記となります。
主治医は謝辞を述べたのち、A君の喘息の治療について話しておきたいことと、皆の思いを聴かせてほしいことを述べ、カンファレンスを始めました。カンファレンスにより、皆、A君の喘息が良くなってほしいという思いがわかりました。また、祖父母や母は父にタバコをやめてほしいこと、祖父は禁煙をする気がないこと、父は禁煙したいがなかなかできないこと、家族仲が悪化すると特にA君の状態が悪くなりやすいことに気づいていることがわかりました。
そして、医師は一般的な家族の喫煙による喘息への影響と禁煙外来について説明し、また、子供は家族の仲をとりもつために、病気が生じることがあることを説明しました。
この後もそれぞれ各自の思いを話し、まずは父、祖父ともに禁煙をもっと積極的に考えてみるという結果になりました。夫婦間のときどき起きる問題については今回は保留となりました。

このようにして、3か月後、A君の父と祖父は禁煙外来で禁煙成功し、喘息の治療段階も一段階さがりました。夫婦仲についても特に目立った喧嘩などはしなくなったということでした。

以上、うまくできすぎた話ですが、例をあげるとこういったことです。

家族志向とは医者が①家族という背景をもった患者であること②患者と家族と医療者は互いにヘルスケアのパートナーであること③医療者は治療システムの一部として機能していることの3つを前提にして、ケアを行うことです。プロの医療職の方や詳しい方法を知りたい方は”家族志向のプライマリケア”(訳:松下明)をご覧いただきたい。

これもまた家庭医療の基本的知識・技術なのです。

「患者中心の医療」は「患者のいいなりの医療」ではありません

2014/10/23

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家庭医療の専門医となるのに、生物心理社会モデルを利用した診療ができることとなっています。この生物心理社会モデルとはEngelという人が提唱した理論であり、患者の臓器だけでなく、その人柄や心理状況、その人の背景にある家族や社会環境も考慮し、利用するというものです。この理論を診察技法へと落とし込んだものが「患者中心の医療」と考えられています。

患者中心の医療による診察技法には6つの要素があります。

①疾患と病い体験の両方を探る

②全人的に理解する

③共通基盤を見出す

④予防と健康増進に取り組む

⑤患者・医師関係を強化する

⑥現実的になる

これら6つの詳細を書きたいところですが、書いているとあまりにも長くなってしまうので、もしこれを読まれている医療職の方はモイラ・スチュアート著「患者中心の医療」を購入して読んでみてください。ちなみに家庭医療の研修医にはこの本は教科書といっていいような存在です。

上記を利用した例を紹介したいと思います。

10月のある月曜日に4歳の男の子が母親と一緒に受診しました。症状は37度台の熱と鼻水です。そのほかは特に問題なく、食欲もあり、元気です。話をしていくうちに以下のようなことがわかりました。

・これまでにしばしば中耳炎になり、抗菌薬を投与されてきた。

・母は今回も中耳炎が心配で、抗菌薬を念のためだして欲しいと考えている。

・生後6か月の妹がおり、うつさないか心配である。

・インフルエンザの予防接種はまだしていない。

・この週末にお遊戯会がある。それになんとか出たい。

さて、体を診察してみると、のど・耳・胸の音・お腹は異常ありませんでした。医学的な診断は急性上気道炎、いわゆる風邪です。

医師は以下のように説明しました。

「診察したところ、胸の音はきれいですし、心配していた中耳炎もないようです。風邪だと思います。風邪ですので、この数日をピークに自然によくなっていきます。ただ、長い人は2週間くらい咳や鼻汁が続くひとがいます。」

ここで、母は抗菌薬を念のため飲ませたいと考えています。しかし、医学的には風邪に対して抗菌薬を処方するのは厳かに慎まねばなりません。簡単に理由をここで説明しますと、風邪に対して、抗菌薬で投与すると利益はほぼゼロであり、逆にその副作用で悩まされる人が圧倒的に増えるからです。

ですので、上述の理由をわかりやすい言葉で説明し、心配なことがあればいつでも電話相談して構わない、再来院して構わない旨を説明しました。すると、母親も納得し、安心したようでした。

この後、医師は妹にも当然うつる可能性はあるので、手洗いをしっかりすること、咳があればマスクをすることを指導し、体調が良くなれば、インフルエンザの予防接種を受けることを勧めました。さらに症状が長引く場合や、ひどくなった場合はいつでも受診するよう指示し帰宅となりました。診察には全体で10分かかりました。

上述の例では完璧とはいえなくても、ある程度、患者中心の医療を提供したと言えると思います。

この場合、患者さんは子供で母親の心配のために来院したといえるでしょう。多くの不安・心配というのは先行きが見えず、過去の経験も踏まえて、あれやこれやと妄想することから起きていることがほとんどです。これに対し、妄想を否定するのではなく、それを受容し、先行きを示し、適切な対処法を示せばたいていの方は理解し、安心してもらえる印象です。で、結局はこの方には当初の抗菌薬をだしてほしいという希望はかないませんでしたが、さらにその奥にある欲求は満たされたのではないかと思われます。あるいはもう話しても無駄だと思ったのか、それはわかりませんが、もしそうだとしても、これを行わずにただ「風邪に抗菌薬は百害あって一利なし」と言って、突っ返したのではたとえ医学的に正しい判断であったとしても、この患者さん親子の反感と残念な思いはさらに強かったでしょう。

長々と書きましたが、そしてまだ書き足りないのですが、本当にざっくりいうと、

患者中心の医療とは患者さんの思いと医学的判断と社会への影響を考えて、その状況でベストを選択していく医療と言えるでしょう。

ただ、そのベストの選択も結局は患者の寿命を縮める可能性があることも頭に入れておかねばなりません。ただ、そこは患者の幸福か寿命かの天秤になってくるわけです。

専門医部会に参加してきました

2014/10/05

9月25日、26日と日本プライマリ・ケア連合学会の専門医部会設立シンポジウムに参加してまいりました。DSC_0459

家庭医療の専門医部会が設立されるにあたり、未来にむけてのディスカッションや「内なる診療」の著者ロジャー・ネイバー先生のワークショップが開催されました。

ロジャー・ネイバー先生と
ロジャー・ネイバー先生と

全国にまだ専門医は400人程度ですが、そのうち100名ほどが集まりました。

世界的には浸透している、家庭医療・総合診療ですが、日本ではまだ、浸透していないことを参加者がみな実感していました。しかし、家庭医療・総合診療がもたらす、患者さんおよび社会への利益は間違いないものであると確信しており、それをどのように日本に広げて、進化させていくのかを真剣に話あいました。

ここで得た、私なりの家庭医療を広めるヒントとして、これまで地域で活躍してこられた開業医の先生方に、家庭医療の知識やスキルを知ってもらうことがポイントになるのではないかと思われます。

家庭医療のスキルには専門医試験のポートフォリオ(診療の成果)提出に必要な項目を抜粋すると

・患者中心の医療

・包括的、継続的かつ効率的な医療

・家族志向のケア

・地域志向ケア

・患者とのコミュニケーション

・行動変容

・科学的根拠に基づいた医療の実践

・プロフェッショナリズム

・研究

・研修医教育

・診療所マネジメント

・コモンディジーズ(全科のありふれた疾患)への対応

・生涯学習

・個人の健康増進と疾病予防

・幼小児・思春期のケア

・高齢者のケア

・終末期のケア

・女性の問題/男性の健康問題

・リハビリテーション

・メンタルヘルス

・救急医療

などである。こうした項目をひとつひとつ、このブログにアップしていこうと考えている。

これを読まれている医療関係者では無い方にもなるべくわかりやすく、要点を記載していくつもりなので、お楽しみに。

 

 

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