厚生労働省がアドバンスケアプランニング(ACP)の愛称を「人生会議」に決定しましたね。この呼び方が良いと思うかそうでないかは人それぞれと思います。
ただ、厚生労働省が本気で取り組もうとしているということは伝わってきます。
前回、前々回のブログでACPについて話してきましたが、今回は実際にどう切り出すとよいのかという点でお話しようと思います。
担当の医師が切り出す場合を想定しています。この対話をする前に医師と患者が信頼関係を築けており、なんでも質問しやすい環境を整えておくことが大切です。
そして、患者さんにとって、終末期に対する考えを知っておいてほしい人も同席しておく必要があります。
『終末期医療のエビデンス』(p3−p14。日経メディカル編。2017年)から引用すると、代表的な質問の例は以下のようになります。
目的 あなたにとって最も重要な希望は何ですか?
あなたにとって最も恐ろしいものは何ですか?
価値観 あなだの人生で最も生きる価値のあると思うものは何ですか?
人生を生きる価値がないと思うような状況は何か思いつきますか?
事前指示書 もしも将来あなたの病気が進行して、自分で話すことができなくなったら、あなたの考えや価値観を最もよく代弁できる人は誰ですか?(医療代理人)
もしも将来にあなたが自力で話せなくなった場合、どのような治療を望むかについて、何か考えがありますか?
心肺蘇生行為不要の指示 あなたが突然死亡したら、我々は心肺蘇生によってあなたを蘇生させようとするでしょう。心肺蘇生のことはよくご存知ですか?あなたがそれを望むかどうか考えたことはありますか?あなたの病気の重さを考えると心肺蘇生はおそらく効果はないでしょう。心肺蘇生はうけず、有効な可能性のあるあらゆる治療を継続するという選択をおすすめします。どう思われますか?
痛みおよびその他の症状 痛みについて教えてください。10段階の尺度で評価してもらえますか?
その他の深いな症状についてはどうですか?食事に困難はありますか?排便は?混乱は?
心理社会的および実存的な問題 ご家族はあなたの病気にどう対処していますか?どのような反応をしていますか?
万が一、思っていたよりも早く死んでしまったとしたら、やり残すことになるものは何ですか?
などになります。
これら質問を通して、患者さんの思いを理解し、患者さんの人生の終末に対し、医療がどう関われるかを判断していきます。
前回、アドバンス・ケア・プランニング(以下、ACP)のお話をしました。前回にもでてきたACPのタイミングについてです。
実際にどのタイミングで話しあい始めるのがいいのでしょうか?
家庭医の中では家族カンファレンスをすべきタイミングというものがあります。
①入院
②終末期ケア
③高齢者の入所
④患者のケアを障害している家族の葛藤や機能不全
(『家族志向のプライマリ・ケア』S.H.マクダニエル著、松下明訳。シュプリンガー・フェアラーク東京より引用)
上記に準じるとACPを始めるのは①、②が望ましいと考えられます。それと③を考えるときにも必要でしょう。
①は特に超高齢者の場合や急性の重症の病気、慢性の病気の致死的な症状悪化、終末期の病状の悪化の場合です。
②は終末期の病気と診断された時です。ACPとは異なりますが、患者さんがお亡くなりになられたときもご家族と会うのは必須とされています。
③は高齢者の施設への入所を考える時に同時にACPを行うのも良いと考えます。患者さんがどのような余生を過ごしたいのかを基準にどうするかを決めていくと良いと考えます。
なぜ、このタイミングかというと、あまり早い時期にしてしまうと真剣に考えづらいということと、遅いと患者さんがきちんと話し合う能力を失ってしまっていたり、ショックが大きいということにもなりうるからです。
①や③の場合、遅すぎになる懸念もありますが、その段階になってACPをしないという選択肢はもうないとも考えられます。
ですので、割と元気なうちから、でも、自分がやがて死ぬことも実感できる段階になったら始めるのがベストといえるのでしょうね。
では、それはいつなの?ということになります。
・患者さんが今後どうなっていくかを話す時。
・成功の可能性が低い治療について話し合う時。
・希望と恐怖について話し合う時。
・患者さんが半年〜1年以内に死亡しても医師が驚かない場合。
(『終末期医療のエビデンス』ステファン・J・マクフィーら著、日経メディカル編。第1章表1−1より参照)
が良いタイミングと言えるでしょう。
そして、人の気分や考えは変わるものなので、折りをみて時々、話題にあげるのがよいと思います。
そして、毎日1日1日を丁寧に生き、その日1日が良い1日だったと言えるように生きれるといいですね。日々是好日ですね。